バカと無知 人間、この不都合な生きもの(橘玲)
書籍情報
- 著者:橘玲(著)
- 発行日:2022-10-15
- ISBN:9784106109683
- URL:https://www.shinchosha.co.jp/book/610968/
書籍目次
- まえがき
- PART I 正義は最大の娯楽である
- 1 なんでみんなこんなに怒っているのか
- 2 自分より優れた者は「損失」、劣った者は「報酬」
- 3 なぜ世界は公正でなければならないのか
- 4 キャンセルカルチャーという快感
- PART II バカと無知
- 5 バカは自分がバカであることに気づいていない
- 6 「知らないことを知らない」という二重の呪い
- 7 民主的な社会がうまくいかない不穏な理由
- 8 バカに引きずられるのを避けるには?
- 9 バカと利口が熟議するという悲劇
- 10 過剰敬語「よろしかったでしょうか?」の秘密
- 11 日本人の3人に1人は日本語が読めない
- 12 投票率は低ければ低いほどいい
- 13 バカでも賢くなれるエンハンスメント2.0の到来
- PART III やっかいな自尊心
- 14 皇族は「上級国民」
- 15 「子どもは純真」はほんとうか?
- 16 いつも相手より有利でいたい
- 17 非モテ男と高学歴女が対立する理由
- 18 ほめて伸ばそうとすると落第する
- 19 美男・美女は幸福じゃない
- 20 自尊心が打ち砕かれたとき
- 21 日本人の潜在的自尊心は高かった
- 22 自尊心は「勘違い力」
- 23 善意の名を借りたマウンティング
- 24 進化論的なフェミニズム
- PART IV 「差別と偏見」の迷宮
- 25 無意識の差別を計測する
- 26 誰もが偏見をもっている
- 27 差別はなぜあるか?
- 28 「偏見」のなかには正しいものもある?
- 29 「ピグマリオン効果」は存在しない?
- 30 強く願うと夢はかなわなくなる
- 31 ベンツに乗ると一時停止しなくなるのはなぜ?
- 32 「信頼」の裏に刻印された「服従」の文字
- 33 道徳の「貯金」ができると差別的になる
- 34 「偏見をもつな」という教育が偏見を強める
- 35 共同体のあたたかさは排除から生まれる
- 36 愛は世界を救わない
- PART V すべての記憶は「偽物」である
- 37 トラウマ治療が生み出した冤罪の山
- 38 アメリカが妄想にとりつかれる理由
- 39 トラウマとPTSDのやっかいな関係
- 40 「トラウマから解放された私」とは?
- 付論1 PTSDをめぐる短い歴史
- 付論2 トラウマは原因なのか、それとも結果なのか?
1 なんでみんなこんなに怒っているのか
- 人間の脳には極めて感度の高い危険感知センサーが備わっている
- 人類が野生環境でサバイバル生活をしていた時代では、危険に対する感度の低いボサッとした個体はさっさと淘汰され、危険に対する感度の高い個体が生き残り遺伝子を残した
- 現在に生きる人類は危険に対する感度の高い個体の末裔である
- 危険を関知するということは自分への被害を強く認知するということになる
- したがって、現生人類である我々も被害=危険に対して敏感である
- 結果、人類は「加害」よりも「被害」に対して敏感に反応する生き物になっている
- 「被害」は強く認識するが「加害」についてはあまり強く認識しない(被害者面しながら他者を加害する人々はこの傾向が強い)
2 自分より優れた者は「損失」、劣った者は「報酬」
- 人類は自分より優れた個体を見ると「損失」を感じる
- 人類は自分より劣った個体を見ると「報酬」を感じる
- 社会脳仮説: 人類の知能が極端に発達した理由は、人類が集団内での権謀術数に適応するためだったとする仮説
- 人間は集団内での駆け引きに対応する為に脳を発達させた
- 現代社会の娯楽=正義と他人の転落
- 人間の脳はルール違反を犯した者を罰すると時、強い快感を感じる
- 人間の脳は他人が転落する時、強い快感を感じる
3 なぜ世界は公正でなければならないのか
- 人類は勧善懲悪の話が大好き
- 社会が公正でなく、不公正な世界では誰も生きていくことはできず、社会は崩壊してしまう
- 人類は社会性動物なので、社会の維持を重視する生き物
- 世界公正仮説
- 犠牲者非難
4 キャンセルカルチャーという快感
キャンセルカルチャーは気持ちいい
- 人間は不正を行った者に罰を与えると快感
- 「上」にいる者を引きずり下ろすのも快感
- この2つの合わせ技は中毒性がある
- しかも、SNSのお陰で低コストに実行できる
- つまり、キャンセルカルチャーは安価で最高に気持ちいい娯楽
キャンセルカルチャーへの疑義
- 過去の悪行は永遠に許されないのか?
- ターゲットが恣意的ではないか?
- 有名人を袋叩きにしても問題が解決することも社会が良くなることもない(参加者が気持ちよくなるだけ)
キャンセルカルチャーの後に訪れる世界
- 「大衆」の機嫌を損ねないようにリスクマネジメントを強化する
- 批判を避ける為に明言しないよう・決定しないようになっていく
5 バカは自分がバカであることに気づいていない
- ダニングクルーガー効果の話
6 「知らないことを知らない」という二重の呪い
知と無知の3つのパターン
- (1) 「知っていることを知っている」
- (2) 「知らないことを知っている」
- (3) 「知らないことを知らない」
- [MEMO]
ダニングクルーガー効果と教育
- 認知能力の低い子供は「何を知らないのか知らない」ので、教師からフィードバックを受けてもどうすればいいか分からず、教育効果が見込めない
- [MEMO]何がわからないのかすら、わからない問題
7 民主的な社会がうまくいかない不穏な理由
集合知で上手く意思決定するためのルール
- (1) 集合知を実現するには一定以上の能力を持つ者だけで話し合うこと(水準を満たさない者の話し合いの参加を禁止する)
- (2) ↑が無理なら、話し合いで結論を出すのは諦めて、優秀な個人の判断に従う
- [MEMO] つまり、バカに発言権を与えてもろくな事にならないということ
民主制への疑義
- 民主主義的な意思決定システムよりも、独裁的な意思決定システムの方が優れているのでは? という疑いが生じている
- 現在の民主主義はバカにも発言権や選挙権を認めた為に機能不全になっている可能性
- [MEMO]
- 特に非常時や変化の早い時代では全員の合議による意思決定よりも独裁者や強いリーダーによる専制的な統治の方が対応速度が早く、結果的に良い結果が得られるというのはある
- ex) コロナ発生における中国共産党の対応やウクライナ侵攻時のゼレンフスキー大統領など
8 バカに引きずられるのを避けるには?
良い選択をするには?
- 結論 → バカを排除する。一定以上の能力を持つ者だけで議論する
- 平均効果によってバカは自分の能力を過大評価し、賢い者は自分の能力を過小評価する為、バカの意見が通りやすくなる
- 能力が低い者が過度な自身を示すことで、能力の高い者は自分の判断に対する自信が揺らぎ、判断を変える(バカに合わせる)
人間は自尊心が傷付くことに耐えられない
- 人間の脳は自尊心が傷付けられることと、殴られる/蹴られるのと同じように苦痛を感じる
- したがって、人間は自尊心が傷付けられることを全力で避けるように進化してきた
- 話し合いにおいても、参加者の一部の自尊心を脅かすと、それらの人々は自尊心を守る為に形振り構わなくなり、議論の質は大幅に低下する
- [MEMO] 話し相手のメンツを潰すと議論が破綻するというよくあるやつ
9 バカと利口が熟議するという悲劇
人間は実績よりも「自信」を参考にする
- 人間はどれほど馬鹿げた主張でも相手が自信満々だと信じてしまう生き物
- 相手が自信満々であればあるほど、冷静に考えれば馬鹿みたいな話でも「もしかすると正しい事を言っているのでは?」と考えてしまう(平均効果)
人間が実績よりも相手の「自信」を参考にする理由
- 現実に発生する全ての問題をじっくり検討していると時間がどれだけあっても足りなくなる
- 原始時代では深く考え込むより行動した方が良い結果が得られた
- 結果、相手の言うことはとりあえず信用して行動する性質の個体が遺伝子を多く残し、「とりあえず相手を信用する」ことが現生人類のデフォルトの行動になった
ネットの争いを解決するには?
- ネット利用にマイナンバー的な個人識別情報を紐づけて匿名性を無くし、誹謗中傷を行う者は排除する
- [MEMO]
- 匿名性を排除すれば誹謗中傷は無くなるという幻想には特に根拠が無い
- 実名でも誹謗中傷する者はするし、失う者が何もない「無敵の人」には関係ない
- 例えば、韓国ではネット利用に個人識別番号の入力を必須とする法律があるが、結局誹謗中傷や嫌がらせの類は無くならなかった
- 当人が「正義」だと信じてやっている場合、処罰はあまり効果を持たない
- 安倍元首相に対する誹謗中傷は匿名・実名問わず酷いものだったが、あれはやってる人々が「これは正義」と考えてやっているのであって、当人の認識では誹謗中傷ではないだろう
- また、誹謗中傷した者をSNSなどから排除というのも管理権を持っている者が恣意的な排除や言論統制を行うなど悪影響の方が大きい(イーロン・マスク以前のTwitterがそうだ)
- 物理的な暴力に至らない限りは争いは起こるがままにし、誹謗中傷を受けた側は一々気にするなという運用の方が結局は良いと思う
10 過剰敬語「よろしかったでしょうか?」の秘密
人間の脳は肉体的な痛みと精神的な痛みの区別が付かない
- 人間の脳は、仲間外れにされたり、他者から批判を受けて精神的なダメージを負うことと、肉体的な痛みに対して同じ反応を示す(=人間の脳は肉体的な痛みと精神的な痛みを区別できない)
- 痛みは切迫した危険が迫っていることを示す信号であり、肉体的な危険も社会的な危険も生存に直結する重要な問題である為、脳の同じ部分で検知するよう進化した
3つのF
- (1) Flight(逃走)
- (2) Fight(闘争)
- (3) Freeze(すくみ)
学校は人類史上を見ても異常な空間?
- 学校という逃げ道の無い空間に同世代の子供達を監禁する制度は異常
- [MEMO]
- 一理あるような気はするものの、いまいち肯定できない
- 人間が社会的な生きものであるなら学校や会社のような空間に人間を集めることはいずれ必ず起きたことであり、むしろ人間の本性だろう
- また、人間は放っておけば同質性の高い集団を勝手に作る生き物でもある
- そももも、原始時代など部族社会の時代は生まれた時から逃げ場の無い空間で生きることが定められていた
- そう考えると「言うほど異常か?」という感はある
脳は自尊心に対する脅威を感じると戦闘モードに切り替わる
- 人間の脳は己の自尊心が傷付けられたと感じると、戦闘モードに切り替わる
- 戦闘モードに切り替わると相手の言葉に耳を貸すことはなくなる
- 話し合いでこうなると最早熟議など不可能
- [MEMO]
- 頭に血が上った者がいる場合は一旦冷却期間を置いて、頭が冷えるのを待つしかないというやつである
匿名SNSは地獄
- 人は匿名になると限りなく残酷になる
- SNSは匿名で自分の安全を確保しながら他人を一方的に攻撃できる言論空間としては最悪の環境
- [MEMO]
- 再びの匿名SNS批判
- 大前提として、匿名で自由に意見が述べれるということは素晴らしいことである
- 全ての発言がトレースされ、掘り返されることはむしろ閉塞的で不自由な社会である
- 勿論、誹謗中傷や嫌がらせが許されるべきではないが
- 匿名が悪いというより、SNSという形で互いに直接相手を指定して喧嘩を売れるシステムが問題なのではないかという気がしている
- かつての2chのように顔の見えない誰かと一時的なやりとりをするだけならそこまで遺恨も残らないような
11 日本人の3人に1人は日本語が読めない
PAACの結果から読み取れる日本人の能力
- (1) 日本人のおよそ1/3は「日本語」が読めない
- (2) 日本人の1/3以上が小学校3-4年生以下の数的能力しか有していない
- (3) パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は人口の1割以下しかいない
- ※ この結果であっても先進国の中では日本人のスコアは1位(らしい)
PAACの結果から読み取れる先進国国民の能力
- (1) 先進国の成人の約半分は簡単な文章が読めない
- (2) 先進国の成人の半分以上が小学校3-4年生以下の数的思考力しかない
- (3) 先進国の成人のうち、PCを使って基本的な仕事ができるのは20人に1人しかいない
全米成人識字調査から読み取れるアメリカ人の能力
- (1) アメリカの成人の43%以上は仕事に必要な文章読解力がない
- (2) アメリカの成人の34%は仕事に必要な図表課題をクリアできない
- (3) アメリカの成人の55%以上は仕事に必要な計算能力が無い
高度化する社会で見えなくなる存在
- 日本人口の6人に1人は偏差値40以下であり、高度化する現代社会では見えない存在になりがち
- 現代の知識社会は人々の知能を高く見積もり過ぎている可能性がある
- [MEMO]
- 日本の社会制度は東大を出たエリートが作っているので凡人には複雑過ぎて理解できない問題
12 投票率は低ければ低いほどいい
バカと無知の違い
- バカは能力の問題
- 無知は問題解決に必要な知識を欠いていること
人間は全知にはなれない
- 現代社会はとにかく複雑で日常のあらゆる疑問に対して厳密な知識を身に付けることはできない
- そんな事をしているほど人間の人生は長くない
政治的無知
- 「有権者は投票に必要な基本的な知識を持っていない」問題
- 投票の意思決定材料となる評価指標についてでさえ曖昧(もしくは間違った)知識しか持っていないケースが多い
- [MEMO]
- 大量の情報とその評価・検討を個人が日々の生活の合間に行うことはそもそも困難である
- なので、フワッとした印象やマスメディア、インターネットの煽動、知人の評判などに乗っかるという行動が多くなる
- それ自体は仕方がないことである
有権者が政治的無知である場合、選挙で正しい選択ができるか?
- 結論は「できない」
- フワフワした問題意識や事実に基づかない感情的・扇情的なパフォーマンスで民衆が煽られてポピュリズム的な衆愚を晒すことにつながる
- 事例: トランプ大統領の誕生、イギリスのEU離脱
- [MEMO]
- ↑に挙げられた事例を何の断りもなく失敗ケースと位置付けてよいものか?
投票率は低い方が良い理由
- 有権者が政治的無知なら投票率が増えれば増えるほど、おかしな選択に流れる可能性が増える
- 無知な人々が曖昧な理由で煽動され、それが大きな票になってしまう
- 逆に無知な投票率が低ければ、それだけ政治家や政党に投票する明確な理由がある「賢い」人が投票することになり、合理的な選択をする可能性が増える
- ただし、そのようなコアな有権者は左右問わずそれなりに極端な思想を持つ傾向が強いので、彼らに任せれば「よりよい政治」が実現できるかは怪しいものがある
- [MEMO]
- 浮動票をどうするか問題
- 浮動票への対応で手間や政策の変更迫られるならいっそ投票しないでいてくれた方がよいというのは正直気持ちはわかる
13 バカでも賢くなれるエンハンスメント2.0の到来
教育幻想
- 「学力は教育によって向上する(向上するものでなければならない)」とするイデオロギー
- [MEMO]
- 人間の能力は皆平等であり、教育によって能力は(平等に)向上するはず、してほしい、そうでなければならないという信仰
エンハンスメント2.0
- DBS(脳深部刺激療法)による認知機能の向上
- 言語能力から複雑な問題解決能力まで様々な認知僚機が活性化されたという報告
- DBSによって勉強や仕事のモチベーションを上げることすら可能(らしい)
- DBSは頭蓋骨を切開する必要があるが、tDCS(経頭蓋直流電気刺激)では頭皮に電流を流すだけで学習スキルの向上が見られた
- TMS(経頭蓋磁気刺激)でも認知能力を向上させる効果がある(らしい)
- スマートドラック(リタリンなど)で脳機能を向上させる方法もある
14 皇族は「上級国民」
眞子様の件
- 例の結婚の件でネットで罵詈雑言を浴びせられ複雑性PTSDになった
- 皇族には反論したり名誉毀損で告訴することが事実上不可能になっているので非常にアンフェア
- 国民と皇族いうだけでそのような事をする権利や義務があるのか
自尊心とは他者との関係で決まる
- 相手に対して圧倒的に優位なら自尊心が傷付けられることはない
アメリカで人権問題が再燃している理由
- アメリカ国内で白人(特に労働者階級/レッドネック)の地位が低下して優位性がなくなってきた
- 以前はアメリカの白人(アングロサクソン)は圧倒的マジョリティだったため、有色人種(黒人やネイティブアメリカン)から批判されても何も思わなかった(むしろ憐れむべき存在として考えていた)
- 白人の地位が低下したことにより、現実的な脅威として白人以外の人種を認知し始めたのではという考察
類似事例
- ロシアの国力やプレゼンスの低下がウクライナ侵攻を招いた
- アメリカのイラク・アフガニスタン戦争
- アメリカと中国の対立
- 日本も経済成長期は中国・韓国の反日運動に全く関心が無かった
- 日本が不況に陥り、日本がNo1で無くなった時、反日が目に入ってきた
- [MEMO]
- 単純化し過ぎでは? 感がある
自尊心が低下すると人間は攻撃的になる
- 経済格差が拡大し、自分が虐げられていると感じる層が増えるとルサンチマンが噴出する
- [MEMO]
- 嫌儲民とかそういう人々だ
- とにかく相対的に「上」と判定した人の揚げ足を取り、引きずり下ろすことを娯楽とする
- また、自分より「下」の人々に対する徹底的な蔑みやマウンティングも特徴
- そのような一般的には醜悪な行為しか娯楽が無い人々
- そうならない為にはやはり経済成長で国が豊かになるしかないわけだが
15 「子どもは純真」はほんとうか?
子供の人種的偏見に関する実験
- 子供に白人と黒人の人形を見せて子供の好悪や善悪を調べる実験
- 結果は3歳を過ぎるとほとんどの白人の子供は黒人を「悪い」もの、否定的な評価を下すようになる
- 黒人に限らず、アジア系やネイティブアメリカン系に対しても同様
人間は自分と似た存在を好む生き物
- 人間の子供は自力で生きていくことができない弱い存在
- 弱い存在が生き残るためには自分を守ってくれるであろう同種の存在(親兄弟、親族)を好きになり、自分と異なる存在に警戒心を持つことが合理的だった
- 自分と異なる存在にホイホイ付いていく子供は拐われて殺されるか、動物に喰われるかして遺伝子を残せなかった
- そういう行動がプログラムされている人間の子供が善悪の観念を持つ歳になれば自分に近い存在(白人)を善、自分と異なる存在(黒人)を悪と素朴に判断するのは致し方ないこと
黒人の子供は白人を好むという謎の結果
- 黒人の子供は↑のような結果とは異なる結果が得られた
- 4-7歳の黒人の子供はしばしば黒人より白人を好んだ
- 3-5歳の黒人の子供は白人の人形と黒人の人形を選ぶ割合はほぼ半々
- 6-7歳になっても黒人と自分を同一化する割合は80%程度
- 黒人の人権を向上させる活動に熱心な家庭で育った黒人の子供ほど、白人に対して強い行為を示した
- マイノリティの子供はより「強い」存在に惹かれる(すり寄る)ことで生存率を高めようとしているのでは? という仮説
黒人の子供が白人を好む理由(の仮説)
- 子供は弱いからこそ強者に敏感
- 弱者(子供)を守ってくれるのは強者なので、弱者である子供は強者に強い好感を持つ
- そして、アメリカ社会では多くの場合、白人は黒人より上位の立場に存在する
- 結果、黒人の子供は白人の方が強く優れた存在であることを察知し、そちらを強く好むようになる
16 いつも相手より有利でいたい
赤ん坊を用いた人間の本性は利他的か利己的かの実験
- 生まれたばかりの赤ん坊は社会や文化の影響をほとんど受けていないと考えられる
- 赤ん坊は興味があるものを長く見つめたり、手を伸ばしたりする
- 逆に興味のないものはすぐに目を逸らすか無視する
- この特徴を利用した実験
- 結果、赤ん坊は2歳になる前から「平等主義者」「成果主義」の支持者(と解釈できる結果が得られた)
公平の概念は猿にもある
- 公平や平等の概念はチンパンジーなどにもある
- [MEMO]
- 犬や猫にだってある
- ある程度社会性を持つ動物なら大抵そのような概念は持っているはず
- 完全に利己的なら殺し合いが発生するのでそもそも群れない
- 利他的に徹するなら生き残れない
- その中間、食べ物を公平に分配することで初めて動物は群れることができる
自分の損には敏感だが、他人の損には鈍感
- 3-5歳の子供で実験をしたところ、自分が損をする場合には敏感に反応(不快感を示す)するが、自分が得をして他人が損するような状況では特に反応を示さなかった(利己的な傾向が発生した)
ある程度成長した子供は相対的な損得を重視するようになる
- 自分が代償を支払ってでも他人より相対的に得をする選択をするようになる
- [MEMO]
- 人間は自分が不利(優位性を失う)な立場になるぐらいなら、絶対的な利益を捨ててでも相対的な優位性を守りたい生き物
17 非モテ男と高学歴女が対立する理由
男女における社会形成の違い
- 男性:
- 自分の所属する集団を一番(最強)にしようとする
- 同時にその集団内でも自分が一番になろうとする
- 女性:
- 一対一の関係性を好む。明示的なヒエラルキーを作らない
- [MEMO-1]
- 非常に疑わしい
- ステレオタイプ過ぎるのでは?
- 弱者男性は集団内での栄達よりも一対一の関係性を好むし、権力を得た女性は権力闘争に積極的である
- フェミニズム団体は権力や権威を得た女性の集団であるが、これも自分の所属する集団を一番にしようとする動きである
- そこに性差はなく、置かれた状況・境遇によって振る舞いが変化するだけではないか?
- [MEMO-2]
- 男性は階級を作るが、女性は身分を作るという見方もある
- 男性は仕事や社会的役割に応じて公的な階級を作るが、その役割から外れた場では(それなりに)対等に振る舞うことが多い(公私の分別を付ける)
- 一方、女性は身分を作るので公私に関係なく上下関係が固定されることが多い(ように見える)
- 勿論、身分を作る男性もいるし、公私を分ける女性もいるが、全体の傾向としてはこんな感じでは
競争の遺伝子
- 集団内での抗争に敗れれば、男は皆殺しにされ、女は子供を奪われ、陵辱される
- そうなれば自分の遺伝子を残すことができないので、集団対集団の抗争では強力に抵抗する性質の個体が生き残り、その性質が強化された
- また、集団内で有力な地位にある個体は遺伝子を残しやすい為、集団内での権力闘争に積極的な性質が強化された
18 ほめて伸ばそうとすると落第する
自尊心と教育
- かつて、自尊心を高める教育が持て囃された
- しかし、実際にはそのような教育は効果を上げなかった
- 自尊心を養っても学業やキャリアが向上することはなく、それ以外でもポジティブな効果は無い(心理学者のロイ・バウマイスターの2003年の研究)
- [MEMO]
- 根拠の無い(実力の伴わない)自尊心を持っても意味が無いという実も蓋もない話
自尊心のメリット
- 自尊心が高いと困難に対して楽観的になる
自尊心と教育(2)
- 自尊心が高くても何もかも上手く行くわけではない
- 教育や子育てで自尊心を高めようとしても却って酷い事になる可能性も高い
19 美男・美女は幸福じゃない
- TBW
20 自尊心が打ち砕かれたとき
- TBW
21 日本人の潜在的自尊心は高かった
- TBW
22 自尊心は「勘違い力」
- TBW
23 善意の名を借りたマウンティング
- TBW
24 進化論的なフェミニズム
- TBW
25 無意識の差別の計測
差別や偏見の議論がややこしい理由
- リベラルな社会では差別主義者は社会的に抹殺されるので生きていけない
- なので、差別をする者は己を「被害者」に位置づける
- 結果的に見かけ上自覚的に差別している者はいなくなる
- 自分を被害者だと信じている者に「お前は差別主義者だ」と言う構図になる
- ある面では正しく、ある面では間違っている
- [MEMO]
- 近年よく見られるようになった構図
白人リベラルのジレンマ
- アメリカでは黒人の犯罪率が高い
- リベラルはこれをアメリカ社会(白人社会)の暗黙的な差別が理由だと考える
- しかし、そうすると白人リベラルである自分自身が「加害者」になってしまうというジレンマを抱える
- これを解決する為、自分以外の白人を「差別主義者」に指定することで「自分以外のあいつらが差別している」という言い訳で自分を守る
- ex. 白人の保守層、トランプ大統領、NRA、etc...
- [MEMO]
- 自分が幼児性虐待をしている人間ほど性的な事柄に対して殊更厳しいのと同じ様なものだろうか
ホワイト・フラジャラリティ(白人の脆弱さ)
- 白人リベラルのジレンマは結局のところ、人種差別を批判している白人もまた「レイシスト」であるという事になる
- 東部や西海岸のリベラルな白人エリートは結局のところ、自分の内なる差別意識を隠蔽・目を逸らす為に口先だけ人種の平等を唱えているのではないか? という話
IAT(潜在連合テスト)
- 内心の差別意識を糾弾することは内心の決めつけによるレッテルの貼り合いにしかならず不毛である
- その為、ある程度客観的な指標や検査があるとよい
- そこで開発されたのがIAT(潜在連合テスト)
- IATは偏見可視化ツールとでも言うべきもので、内心の偏見をある程度客観的に評価することができる
IATの厄介な問題
- リベラル白人がIATを受けると「白人至上主義者」と似たような結果になった
- 同性愛者の権利を守る女性活動家がIATを受けると、同性愛者に対して否定的な意識を持っているという結果になった
- 黒人がIATを受けると黒人と犯罪を結び付けて考える傾向があるという結果になった
- IATの結果を素直に解釈すると、結局のところアメリカでは人種や主義主張に限らず、誰もが「レイシスト」であるということになってしまう
- [MEMO]
- 当然の話であるように思う
- 内心までクリーンな人間などいるわけが無いし、児童でさえ社会的なポジションを嗅ぎ取るという事は
15 「子どもは純真」はほんとうか?
で示されていることだ
26 誰もが偏見をもっている
偏見は環境によって形成される
- ヨハネスブルグに滞在したことがあれば「白人=安全」「黒人=危険」と認識するのは当然(差別意識云々以前の問題として現実的な脅威に直結する為)
- そのような人がIATを受けると黒人に対してネガティブな偏見を持っていると出力される
- 脳は自分の意思とは関係なく危険度や不快感などの感情的シグナルと対象を結びつける
- 要するに、人類はステレオタイプ(偏見)から自由にはなれない生き物
- [MEMO-1]
- 自分の認知を客観的に観察するメタ認知が重要になってくる
- この節は少々言い訳がましく、また駆け足なところがあった
- 自分の中に偏見があるという事実に動揺しているように感じられる
- [MEMO-2]
- そもそも偏見はあって当然である
- また、内心はどのような偏見に満ちていても自由であり、誰に咎められることではない
- 問題はそれを表出するかどうかでしかない
- 偏見を行動療法などで消してしまえば自分の後ろめたさも解消されるのではと考えるのは原罪思想と免罪符の関係のようなもので健全であるとは思えない
- そのようにしたところで、結局のところ「行動療法で偏見を消している自分はそうでない人々よりも道徳的に優れた人間だ」という偏見を自分に植え付けるだけの無間地獄に突入するだけだからだ
- 偏見を消すのではなく、自覚し、受け入れることが肝要だろう
27 差別はなぜあるか?
ステレオタイプ
- 脳は認知的限界がある為、複雑な物事をそのまま取り扱うことができない(認知閾)
- なので、カテゴリーに分けて理解しやすくする(=ステレオタイプに分類する)
- 脳の基本的な機能(仕様)であり、ヒトの本性でもある
ex. アメリカ人のカテゴリ分け
- (1) 性別
- 脅威度の判定(男は潜在的に危険、女は安全)
- 性愛の対象になるか(親密な関係を築きたいか、その可能性はあるか)
- (2) 年齢
- 若い男は脅威レベルが高いが、老人はいざとなれば実力で制圧できるので若者より安全
- 若い女は性愛の対象になるので警戒心が下がる
- (3) 人種
- 白人か? 黒人か?
- 同じ価値観を共有しているか?
人種差別ではなく外集団と内集団(我々と余所者)
- 人種差別を詳細に分析した結果、人種そのもので単純に区別しているわけではなく、その人物が帰属している社会に対して区別(差別)している
- 黒人差別をする白人でも「この黒人は我々の側の人間だ」と考えると仲間として認めることがある(似たような事例はよくある)
- [MEMO]
- 名誉○○とか親○○派みたいな話
差別は何故存在するのか
- 人口(個体数)が増えれば、複数の集団(群れ)に分裂するのは自然の流れ
- 群れ同士が資源を巡って対立するのもまた自然の流れ
- そのような状況においては、仲間と協力して対立する群れとの生存競争に勝利することが生存や遺伝子を残す為に必須の条件となる
- 結果、自分達とそれ以外を厳格に区別する機能(差別)が発達した
敵味方識別装置としての文化や言語
- 人間の個体数が増えると、集団の個体識別が不可能になる(見知らぬ個体が紛れ込んでもわからなくなる)
- そこで、同じ集団の人間であることを別個体にアピールする必要が出てくる
- 例えば、言語(方言)、文化、音楽etc...など
- [MEMO]
- 特定集団内でのみ伝わる言い回しやジョークは余所者が入り込んだ時に迅速に見つけ出す為のセンサーであるという説もある
差別の無い社会を作るには?
- 理屈としては、人間がカテゴリー化(ステレオタイプ)で物事を考えることを止めること
- しかし、人間の脳の認知限界の問題上、それは難しい
良い兆候
- 近年では文明化のお陰で、異なる集団同士がいきなり殺し合いを始めることは稀になってきている(起きないとは言っていない)
- せいぜいサッカーの試合でヒートアップしたりSNSで罵倒し合ったり程度
- この調子で行けば何世代か後には差別は無くなっているのかもしれない
- [MEMO]
- 差別そのものは残るが、直接的な殺し合いや暴力は抑制される(法で裁かれる)方向に向かうというのはある
- 現在のペースで人口が推移していくと、先進国の国民は少子高齢化で消え去り、イスラム教徒だけが残る可能性が示唆されている
- 世界がイスラム教で統一されたら、ある意味では差別は無くなるのかもしれない(単にイスラム教以外の文化圏が無くなることで達成される)
- イスラム教の内部でもシーア派とスンニ派の確執はあるのでそう簡単ではないかもしれないが
テクノロジーで解決する可能性
- AIやビッグデータ解析で「そもそも相容れない人間とは関わらない、良い関係を築ける人間だけと付き合う」ような世界が到来するかもしれない
- そうなればそもそも不愉快な人物を目にする必要が無いので差別心が生まれる理由もなくなる
- [MEMO]
- そうはならないと思う
- 人間は集団の中でも競争や対立をやっていく生き物なので、同質性の高い集団内でもトラブルは発生するだろうし、そこから差別が生じるのが目に見えている
- 対立や差別は人間の基本機能なので、それが無くなることはないだろう
28 「偏見」のなかには正しいものもある?
- TBW
29 「ピグマリオン効果」は存在しない?
- TBW
30 強く願うと夢はかなわなくなる
- TBW
31 ベンツに乗ると一時停止しなくなるのはなぜ?
- TBW
32 「信頼」の裏に刻印された「服従」の文字
人間が他人を信頼する理由
- 「人間は誰かに頼らないと生きていけない生き物」だから
- [MEMO]
- 綺麗事や情緒的な意味ではなく、現実的問題として自己完結して生きることが難しい生き物が人間
- 野生環境では言わずもがな、文明社会においても一人で自己完結して生きることは非常に困難
人間は頼る相手を冷徹に判断している
- 人間は無意識の内に相手の利用価値を測っている
- 人間は有能な者に魅力を感じ、無能な者を避けるよう設計されている
- 子供を使った実験でも、無能(を演じた大人)より有能な大人の方を高く評価する結果が得られた
- 子供は特に無力なので、「より有能な年長者」に従った方が生存確率は高まり、そのような性質の個体が遺伝子を残してきた
権威主義
- 有能な者に従う性質は権威への従属にもつながる
- 権威への服従は人間の普遍的な性質
信頼と服従は紙一重
- 有能であり権威ある人物や集団を信頼することは、判断をそれらに委ね、服従することと然程違いはない
- 人間は無意識的に服従を選択してしまう生き物
33 道徳の「貯金」ができると差別的になる
道徳貯金
- 人間は善悪の行為を損得の取引として捉えている
- 綺麗事や善行を行い、徳を積んだと主観的に認識した時、その後ちょっとした悪行を行っても差し引きでトントンだからセーフ理論を展開する
- 逆に何か悪行を行って罪悪感を覚えている時は、ちょっとした善行(募金や人助け)を行って辻褄を合わせてみたくなったりする
リベラルが胡散臭い理由
- 公には道徳的・偽善的な言動をすることで「道徳貯金」がプラスになっている為か、独善的で不愉快な言動をすることに躊躇がないところ
- [MEMO]
- 一般に独善的で他人を不愉快にする言動は「悪行」ポイントになるが、リベラルの皆さんは道徳的・偽善的な言動をしているので、「これぐらいは許されるやろ」の精神になってしまう
- 道徳的優位というやつだ
- あるいは(精神的な)免罪符か
- リベラルさんは理性を称揚しているように見えて、実に動物的・素朴な本能に忠実な振る舞いをしている
34 「偏見をもつな」という教育が偏見を強める
シロクマ効果
- トルストイ(諸説あり)が出典の小咄
- 「シロクマのことを5分間考えずにいられるか」という内容の賭けをする話
- 人間は「○○のことを考えるな」と言われると、どうしてもその対象のことを考えてしまう
思考抑制のリバウンド効果
- 「○○をしている間は○○のことを考えるな」と指示され、意識的にその事を考えないようにしていると、その作業や期間が過ぎた後はいつもより余計にその対象の事を考えてしまう現象
- 「偏見を持たないようにしろ」と指示して作業(人物の分類など)をさせると、作業中は偏見を排除して作業を行うが、作業終了後は通常よりも強く偏見を持つ結果が出た(らしい)
- [MEMO]
- ご立派な人ほど気を緩めると差別意識が漏れてしまうという現象の理由だろうか
35 共同体のあたたかさは排除から生まれる
- TBW
36 愛は世界を救わない
- TBW
37 トラウマ治療が生み出した冤罪の山
トラウマ治療による冤罪
- 1980年代、精神疾患の治療として催眠療法が流行
- 催眠によって抑圧されていた患者の記憶を回復させる事が目的
- 結果、存在しない記憶が「回復」し、子供の頃に性的虐待を受けていたとして子供が親を訴える事件が多発
抑圧された記憶による訴訟ブーム
- 催眠療法の流行と同時に抑圧された記憶を元にした訴訟も流行(訴訟を煽る者も発生)
- 裁判所も自称被害者の証言だけで物証が無いにも関わらず、有罪判決を下すことが多かった
- 結果、多くの父親が投獄
- 後に、催眠療法が似非科学であることが判明
- 投獄された親達は逆転無罪で釈放→逆に親が子供を訴える事例も
- [MEMO]
- 控えめに言って地獄
人間の記憶は流動的
- 人間の記憶は簡単に作り変えることができる
38 アメリカが妄想にとりつかれる理由
アメリカ社会は児童虐待に敏感
- アメリカ人は児童虐待に対する処罰感情が強い
- 児童虐待の疑いがある事件が起きると、警察は市民感情に応えて「悪」を摘発するプレッシャーに晒される
- 裁判所も世論に影響されて判決を急ぎ、十分な審議をしないこともある
催眠療法で冤罪が多発したのはアメリカだけ
- 催眠療法の結果、存在しない記憶が「復活」し、子供が親を訴えた事件
- このようなケースが起きたのはアメリカだけ
- 催眠療法は他の国でもやっていたが、アメリカ以外ではこのような事件は起きなかった
- [MEMO]
- あったとしても、常識的に考えて証言だけでは有罪にできないだろう
- しかし、アメリカは児童虐待への処罰感情が強いのでショッキングな証言に引きずられて有罪判決を下してしまった
何故アメリカ人は妄想でヒステリーを起こすのか
- 仮説 → 「アメリカは妄想的な人間が集まって作った国だから」
- アメリカ人の祖先であるピルグリム・ファーザーズは冒険者的な気質の持ち主が多い(だからこそアメリカに渡った)
- その為か、アメリカ人の双極性障害の有償率は高い(アメリカ:4.4%、その他:2.4%)
- 躁状態の人間の特徴とアメリカ人の自画像は類似したものが多い
- 一方、双極性障害の人間は強いストレスがかかると鬱状態に反転する
- 更に、パラノイア気質も持つ
- つまり、パラノイアはアメリカ人の国民性
- [MEMO]
- X-FILEが流行する国である
アメリカは軽躁社会、日本は抑鬱社会
- アメリカ人はみんな軽躁状態で楽天的で挑戦的
- 日本は内向的で神経症的
- 日本人は改良が得意だがイノベーションが苦手
- 電車が時刻表通りに来ないとイライラする
- 感染症は同調圧力で対処する
39 トラウマとPTSDのやっかいな関係
脳は因果関係を探す
- 脳は眼の前の現象の原因を探ろうとする機能がある
- 無意識でも常に因果関係を探している
- [MEMO]
- 目の前の現象(異変)の原因を特定し、それに対処しようとするのは人間に限らず、動物の基本的な振る舞い
- 目の前の現象(異変)に無頓着な個体は生き残れず、遺伝子を残せなかった
性的虐待は必ずしもトラウマを発生させるわけでもない
- 実際に性的虐待を受けた子供を追跡調査した結果、1/3の子供はトラウマになっていなかった
- [MEMO]
- 心の強さには個人差があるという話
高所恐怖症の研究
- 仮説
- 「子供の頃に転落して怪我をした子供は高所恐怖症になるのではないか?」
- 結果
- 転落経験のある子供は高所恐怖症になっていなかった
- 原因
- 転落経験のある子供は元々高所を怖がらない気質だった
- それ故、高所に上り、転落し、怪我をした
- 気質の問題なので成長しても特に変化することもなく、高所恐怖症になることもなかった
- つまり、高所恐怖症の人間は最初から高所恐怖症だった
PTSDになりやすいタイプの人間
- 人間には生まれつきPTSDを発症しやすい人とそうでない人がいる
- 人間には生まれつきトラウマになりやすい人とそうでない人がいる
- [MEMO]
- それはそう
40 「トラウマから解放された私」とは?
「トラウマ」は進化論的にはバグ
- 強いストレスに晒されると記憶が消えたり、解離症状が発生するなら、そのような性質を持つ個体は自然淘汰されたはず
- 記憶が消えては危険を覚えていられず、生き残っても解離症状を起こしていれば次の危機に対応できない
- [MEMO]
- ここは疑問
- タヌキのようにびっくりすると失神してしまう動物もいるし、ナマケモノのように現在まで生存していることが謎な動物もいる
- 環境によっては警戒心を持たない動物もいた(絶滅したドードー、現存するカカポetc...)
- 多少不可解な性質があっても環境に適応していれば生き残ることはできる
- つまり、「トラウマ」を発症する個体も人類の社会においては生存が確保されていたので、その形質も引き継がれてきたのでは
「トラウマ」で記憶の抑圧や解離は発生するか
- ホロコーストの生存者は生涯に渡って強制収容所の記憶に悩まされた
- 記憶の抑圧や解離症状は起きていない(少なくとも多数派ではない)
- つまり、悲惨な体験や極度のストレスを受けると「必ず」記憶の抑圧や解離が起きるわけではない(個人差がある)
- [MEMO]
- 精神に異常を来してしまう者はそもそも強制収容所を生き延びる事ができなかった、あるいは解放後にすぐ死んでしまった可能性
- 逆に言うと、過酷な環境下でも生存できるだけの心身の頑強さがあったからこそ、その記憶に生涯苦しめられた可能性
トラウマ治療は取り返しの問題を発生させる可能性
- 潜在的なトラウマ体験があっても、その対処法は個人によって異なる
- 精神療法は曖昧な記憶しか持たない患者に対しても「言語化されたトラウマ」を植え付けることになる
- また、グループセラピーなどで他者の影響を受けて記憶が変化していくことが多々ある
- そうして、存在しない・事実と異なるより誇張された記憶が植え付けられてしまうことがある
トラウマは記憶でしかない、では記憶を消せるとしたら
- 記憶はニューロンのネットワークである
- ニューロンのネットワーク形成を阻害すると記憶は作られなくなる
- 薬物でニューロンの形成を阻害することは可能
- 記憶を消せばトラウマは発生しなくなる
- これはマウス実験である程度確認されている
- しかし、記憶は人格の一部であり、個人を形成する重要なパーツでもある
- カジュアルに記憶が消せるとしたら、個人の人格は一貫性を持つことができるのか?
- [MEMO]
- 耐え難い苦痛から逃れる為の最後の手段としての運用になるだろうか
- 侵襲的な外科手術も言ってしまえば、個人を形成するパーツを物理的に除去することである
- 臓器を一部除去した人物はそれ以前の人物とは違う存在かと言うと、そんな事はない
- テセウスの船の如く、臓器を徐々に入れ替えていき、最終的に全ての臓器が入れ替わったとしても、主観的な自己認識に変化が無ければ、その個人は依然として存在する
- 記憶を消したり変化させたとしても、主観的な自己認識に変化が無ければ、やはりその個人は存在すると考えてもよいのではないか