正義とは何か 現代政治哲学の6つの視点(神島裕子)
書籍情報
- 著者:神島裕子
- 発行日:2018-09-20
- ISBN:9784121025050
- URL:https://www.chuko.co.jp/shinsho/2018/09/102505.html
書籍目次
- まえがき
- 序章 哲学と民主主義 ――古代ギリシア世界から
- 第一章 「公正としての正義」 ――リベラル
- 1 ロールズ「正義論」の背景 ――「私には夢がある」
- 2 正義原理と「無知のヴェール」
- 3 ロールズ以降のリベラリズム
- 第二章 小さな政府の思想 ――リバタリアニズム
- 1 古典的リベラリズムという源流
- 2 リバタリアニズムの四類型
- 3 「森の生活」 ――もうひとつの可能性
- 第三章 共同体における善い生 ――コミュタリアニズム
- 1 サンデルと「共通善にもとづく政治」
- 2 共同体の「美徳」を取り戻せ
- 3 国教を越える共同体は可能か
- 第四章 人間にとって正義 ――フェミニズム
- 1 「われわれ」からの排除 ――女性はいつまで「他者」なのか
- 2 社会契約説とケイパビリティ・アプローチ
- 3 個人を支える政治
- 第五章 グローバルな問題は私たちの課題 ――コスモポリタニズム
- 1 「私たち」の課題としてのグローバルな問題
- 2 コスモポリタニズムの正義論
- 3 さまざまな具体的提案
- 第六章 国民国家と正義 ――ナショナリズム
- 1 国家主義
- 2 リベラル・ナショナリズム
- 3 愛国心は誰にとっての正義なのか
- 終章 社会に生きる哲学者 ――これからの世界へ向けて
- あとがき
- 参考文献
- 奥付
序章 哲学と民主主義 ――古代ギリシア世界から
- 古代ギリシャとソクラテスの話
第一章 「公正としての正義」 ――リベラル
ロールズの正義論
- 現代正義論はアメリカの哲学者ジョン・ロールズの「正義論」から出発している
- ロールズは1960年代に公民権運動を経験する中で「公正としての正義」を構想した
- これはリベラリズムと呼ばれるようになった
- [MEMO]
- リベラリズムの始祖だったのか
正義論の時代的背景
- 黒人差別が色濃く残り、キング牧師が「私には夢がある」とスピーチしてた頃
人間の道徳性の発達段階説(ローレンス・ユールバーグ)
- (1) 服従志向
- (2) 道具主義的 相対主義志向
- (3) 対人関係の調和あるいは「良い子」志向
- (4) 「法と秩序」志向
- (5) 社会契約的遵法主義志向
- (6) 「抽象的かつ倫理的であり(黄金律、定言命法)、十戒のような具体的道徳律ではない。元々これらの原理は、人間の権利の相互性と平等性、一人ひとりの人間の尊厳性の尊重など、正義の普遍的諸原理である」
- [MEMO]
- 第6段階でいきなり本気出してきた感
ロールズによる道徳性の発達段階仮説
- (1) 家庭における道徳性の発達(権威の道徳性)
- (2) 社会における道徳性の発達(連合体の道徳性)
- (3) 「正しく行為する、並びに正義にかなった制度を推進するという考え方」を持つに至った道徳性(原理の道徳性)
ロールズの考える正しい社会
- 社会全体の福祉の増大よりも個人の自由と権利の方が一定の優先権を持つ
- [MEMO]
- 黒人差別へのアンチテーゼから出発している思想という感じはある
- 「黒人の存在を不快に思う人」が一定数いた場合、「社会全体の福祉の増大」は黒人排斥を選択してしまう
- そうではなく、個人の自由と権利こそが「社会全体の福祉の増大」より優先されるべきというのは確かにそうだ
功利主義
- 快楽の増大と苦痛の減少の追求を人間本性に照らして善と見なす考え方
- ↑のような基準に則った個人の行為や社会の制度を正しいものとする
ロールズの考える正義の対象・主題
- 正義原理の対象は社会的諸制度
- 社会的諸制度とは、法律、政治、福祉、所有、家族etcの社会的制度や社会的枠組み
- これらの社会的制度が「正義に適った社会に関する原理」を充たしている場合、社会は正しい状態にあるとする
- [MEMO]
- 確かにリベラリズムっぽい
ロールズの考える正義にかなった社会に関する原理
- 第一原則:
- 各人は、平等な基本的諸自由の最も広範な全システムに対する対等な権利を保持すべきである。ただし最も広範な全システムといっても(無制限なものではなく)すべての人の自由の同様(に広範)な体系と両立可能なものでなければならない。
- 第二原則:
- 社会的・経済的不平等は、次の二条件を充たすように編成されなければならない。
- (a) そうした不平等が、正義にかなった貯蓄原理と首尾一貫しつつ、最も不遇な人々の最大の便益に資するように。
- (b) 公正な機械均等の諸条件のもとで、全員に開かれている職務と地位に付帯する(ものだけに不平等が留まる)ように。
- 社会的・経済的不平等は、次の二条件を充たすように編成されなければならない。
第一原則
- 基本的諸自由:
- 政治的な自由(投票権や公職就任権)
- 言論および集会の自由
- 良心の自由
- 思想の自由
- 人身の自由(心理的抑圧および身体への暴行・損傷からの自由を含む)
- 個人的財産 = 動産を保有する権利
- (法の支配の概念が規定する)恣意的な逮捕・押収からの自由
- これらの基本的な諸自由は全ての人間に平等でなくてはならない
- 最も広範な全システム:
- 自由は別の自由の為に制限されることがある
- 人身の自由を守る為に言論の自由が制限されるなど
- ただし、制限される範囲は最小限でなければならない
- 様々な自由が各種の自由とバランスを保っている状態が「最も広範な全システム」
第二原則
- 社会的・経済的格差
- 社会的/経済的な不平等が「最も不遇な人々」の最大便益に資するものであること
- 最も不遇な人々 → 生い立ちや才能、運に恵まれていない人々
- 格差はどのようにしても発生するが、それを最も不遇な人々の為に有効活用する
- 格差自体は自然に発生するものなので、それ自体の解決は目指さない
- 公正な機械均等の原理
- 才能とやる気があるにも関わらず、肌の色や性別、あるいは家柄によって特定の職に就けない人が「いない」場合に限り、その職務と地位に付帯する社会的・経済的不平等が認められる
- [MEMO] 要するに誰でも才能とやる気があれば、公正な競争原理の下でその職に付ける状態なら特権や経済的優位が認められるということ
日本社会の公正な機械均等について
- 日本は憲法14条で機会の平等が定められている
- しかし、それは形式的/表層的なものに留まっているのが現状である(らしい)
- [MEMO]
- 具体的にはどのようなケースを指しているのか?
- 唐突なお気持ち挿入に見える
- 日本社会は概ね機会は平等であるように見える
- エッジケースは存在するが「形式的/表層的なもの」と断ずる程一般的なものとは思えないのだが
社会的協働
- 社会の構成員のニーズによって仕事が発生する、という考え方
ロールズの正義論の要求するもの
- 各人の功績の有無に関わらず、社会的諸価値を社会の全メンバーへ分配する
- これはアリストテレスの分配的正義とは異なる
アリストテレスの分配的正義
- (1) 各人に対して、各人の諸価値に比例した名誉や財産分配する(比例的正義)
- (2) 各人に本来あるべき名誉や財産の回復(是正的正義、矯正的正義)
リベラルな分配的正義
- 分配的正義は貧者には厳しい
- 全ての人の基本的ニーズは満たされるべきという考えは18世紀までは確立しなかった
- [MEMO]
- 人類の人口に対して食料の生産量が不足していた(=資源の奪い合い)の時代だったからか?
- そうであるなら、21世紀も分配的正義が復活しそう
- ロールズの正義論はヨーロッパの社会民主主義(社会主義)思想の延長線上にある
ロールズの正義論と社会主義
- ロールズの正義論と社会主義の相違
- (1) 正義の2原理には優先順位がある
- 第1原理は第2原理に優先する
- 第2原理の「公正な機会の平等」は「格差原理」に優先する
- (1) 正義の2原理には優先順位がある
カントの定言命法
- 自分で立てたルールに従うことが自律であり自由である
- [MEMO]
- 良い
ロールズ以降のリベラリズム
- ロールズの正義論は現代正義論の幕開け
- 同時にリベラリズムを確立した
- ロールズ以降のリベラリズムの議論はロールズの正義論を前提に行われる
何の平等か 基本的ケイパビリティ
ケイパビリティ(潜在的能力)
- ある人が何かを行ったり、何かになったりする為の実質的自由