ただしさに殺されないために 声なき者への社会論(御田寺圭)
書籍情報
- 著者:御田寺圭(著)
- 発行日:2022-05-20
- ISBN:9784479393870
- URL:https://www.daiwashobo.co.jp/book/b601745.html
書籍目次
- 序章「私はごく普通の白人男性で、現在28歳だ」
- 第1章 ただしい世界
- 1 文明の衝突
- われわれは、それでも風刺画をやめることはない
- 西欧文明は敗れる。テロのせいではなく、自らの思想によって
- 「多様性・多文化共生」という名の片務的責務
- 表現の自由と人権思想の対立
- 極右を支持する同性愛者
- 「前提を共有しない者たち」との戦い
- 2 アルティメット・フェアネス
- ウイルスが燻し出す対立構造
- 平穏な社会は永続的な勝者をつくる
- 究極の公平を求めて反旗を翻す
- 3 人権のミサイル
- 東欧からの贈り物
- かつては「人権」によってミサイルが放たれた
- 迫りくる「相対化」の時代
- 4 両面性テストの時代
- コロナ対策に成功したイスラエル
- 足かせとなった人権思想
- 反移民国家ハンガリーの「不都合な勝利」
- 民主主義国家の光と影
- 5 共鳴するラディカリズム
- 連鎖していく過激思想
- 「生きづらさ」の物語化
- 責任の外部化
- 物語と人との共鳴から、人と人との共鳴へ
- 物語の復活を願う人びと
- 「多様性」の反動
- 6 リベラリズムの奇形的進化
- 不寛容なリベラル?
- 共感性という風穴
- 「共感できない者」にも与えられるリベラルな恩恵
- 道徳的優位性 ――人情=人権=正義
- 傾斜配分の正当化
- 徳の賊
- 1 文明の衝突
- 第2章 差別と生きる私たち
- 1 キャンセル・カルチャー
- SNSで台頭する人治主義
- 自由の制限にはあたらない。なぜなら......
- 過去の自分がいまの自分を刺す
- 伝播する疫病
- 2 NIMBY
- 彷徨える社会コストの集積地
- 高級住宅街に「治安を乱す存在」はいらない
- 平和な国の最後のリスクは人間である
- 「被害者」ポジションをめぐるパワーゲーム
- 3 排除アート
- 路上生活者を追い出すための作品
- 「排除」のポジティブな言い換え
- きれいな街が隠蔽するもの
- ただしく拒絶するやさしい言葉
- 4 植松聖の置き土産
- 社会にとって役立つ存在/役立たない存在
- 「植松理論」とは何か
- 反論の脆弱性
- 私たちの社会にはマイルドな「植松理論」が存在する
- 植松の問いと対峙する日
- 5 輝く星の物語
- 共感と称賛があふれるストーリー
- 私たちに赦しを与えてくれるから
- 美しい物語が持つ影の表情
- 発達障害者の親たちに突き付けられる責任
- 「ふつう」を擬態するように求める社会
- 「ありのまま」が受容される人と、そうでない人
- 6 闘争と融和
- 「冷淡」な駅員かクレーマーか
- 危ういバランスの上で成立した「川崎バス闘争」
- 差別ではなく貧しさによって
- 強者はどこに消えた?
- 1 キャンセル・カルチャー
- 第3章 自由と道徳の神話
- 1 ルッキズム
- 見た目で判断されない社会へ
- 奇妙な違和感 ――加速するルッキズム?
- ルッキズム反対論は美しい人のためにある
- ルッキズム批判の果てにあったもの
- 2 マッチングアプリに絶望する男
- 「すべての女がサイコパスに見える。もうだれも信じられない」
- 彼の見た風景
- 動物化する人間関係
- 女性だけが解放された
- 去勢された男たち
- さらに理性的になり、ただしくなった男たちは、去っていった
- 3 健やかで不自由な世界
- 牛肉は地球環境の「敵」だ
- 嫌われていたヴィーガニズム
- 健康である義務 ――パンデミックで変わる倫理
- 「個人の自由」の喪失
- 4 自由のない国
- 一国二制度の終焉
- 「表現の自由」が存在しない国
- 「民主主義的プロセス」の省略
- ファシズムを歓迎するリベラリストたち
- 5 置き去り死
- トイレで生まれ、アパートで消える命
- だれにも煩わされない社会を私たちは望んだ
- 弱者にのみ降りかかる自由の代償
- 「迷惑人間を撃退!」
- 彼女もまた「迷惑で不快な他者」だった
- 6 死神のルーレット
- 社会に復讐する者
- 弱者の「弱者」たるゆえん
- 誰もが見て見ぬふりをする
- 助けようとする人にさらにリスクを引きわたす
- 1 ルッキズム
- 第4章 平等なき社会
- 1 親ガチャ
- 「親ガチャ」という言葉が人びとを捉えた
- バブルを知らない若者たち
- 人間社会の「ネタバレ」はもう済んだ
- 努力信仰が死ぬとき
- 2 子育て支援をめぐる分断
- かつて社会が子どもを育てた時代があった
- パンデミック後の景気対策として
- 「子どもたちのために」の建前に寄せられる不満の声
- 恋愛・結婚が贅沢になる時代
- 国家の存亡の危機
- 3 能力主義
- 大学は、あらゆる差別に反対する?
- どうしても消せない差別
- 「能力差別」の合理性
- ルッキズムを許さない高偏差値の学生たち
- 女性を競争社会に投入する
- オリンピックが明らかにした知的エリートたちの想像力の欠如
- 交わることのない大衆とエリート
- 4 低賃金カルテル
- 厚遇される役に立たない仕事
- エッセンシャル・ワーカーには感謝が寄せられるが......
- だれもやりたくない地味できつい仕事をあえてする人なのだから
- 低賃金の原因は私たちの偏見にある
- 5 キラキラと輝く私の人生のために
- 「欧米ではメジャーでカジュアルな卵子凍結」
- 先進国のバリキャリ女性のために働く途上国の女性メイドたち
- 資本主義の忠実なしもべ
- 人権思想を守るために、不平等な人権をつくる
- 6 平等の克服
- 暴力と破壊が、社会を均す
- 平和な世界によって失われたもの
- パンデミックは持たざる者たちの希望になりえるか
- テクノロジーが「恐怖」を克服した
- 1 親ガチャ
- 第5章 不可視化された献身
- 1 子ども部屋おじさん
- 増え続ける子ども部屋で暮らす中年男性
- 人間関係を得る資格とは
- 快適な社会の透明人間
- 他者を求めることは「加害」なのか
- 「社会問題」と呼ぶ責任
- 2 暗い祈り
- 新たな就職氷河期の予兆
- 「公平に」見捨てるべきだという声
- すべての人が、同じ方向に祈っているわけではない
- 社会の低迷と閉塞が救いになった人びと
- みんな当事者の今が「透明化された」人の痛みを知る最後の機会になる
- 3 きれいなつながり
- 震災によって、人びとは再び結ばれた
- つながり過ぎたその先で
- あなたは、つながるに値する?
- 「つながり」が格差を拡大する
- 人間関係という資産 ――分けられない宝
- 4 搾取者であり、慈善家であり
- 聖人君子はいない
- ある金融家の搾取と善行
- 天才児のための財団 ――貧しき者から富める者への再分配
- スポットライトの影にいる者たち
- 5 共同体のジレンマ
- 「オンライン・サロン」は悪なのか
- 無縁化/無援化社会か、搾取的な包摂か
- 潔癖さを求める現代の呪い
- それでも私たちは個人主義を選ぶ
- 6 疎外者たちの行方
- アウトサイダーの終焉
- 「ヤクザ」が消えれば、やくざ者はいなくなるのか?
- 疎外の果てに現れた者たち
- お前はどうするつもりや?
- 1 子ども部屋おじさん
- 終章 物語の否定
序章「私はごく普通の白人男性で、現在28歳だ」
- [WIP]
第1章 - 1 文明の衝突
われわれは、それでも風刺画をやめることはない
- 今日の我々が直面している「文明の衝突」:
- 一つの国の中に別の文明が入り込み、密接な距離感の下に同居している
- 結果、それぞれに相容れない価値観や規範体系が衝突を起こしている
- 文明の衝突:
- 近年のリベラリズムによって、多様性・多文化共生の名の下に自らの国に外国人を招き入れた結果、彼らとの価値観の相違・利害対立が発生
西欧文明は敗れる。テロのせいではなく、自らの思想によって
- 西欧文明は自らの選択によって滅びる:
- 西欧文明はリベラルであるが故に人口の再生産ができず、静かに増えるイスラム教徒に飲み込まれる
- 人権を守った結果、国が滅ぶ皮肉
「多様性・多文化共生」という名の片務的責務
表現の自由と人権思想の対立
極右を支持する同性愛者
「前提を共有しない者たち」との戦い
第1章 - 2 アルティメット・フェアネス
ウイルスが燻し出す対立構造
- コロナ禍で見られた若者の奇妙な行動:
- コロナ流行で外出禁止令が出ていても、それを無視して街へ繰り出した
- むしろ、積極的に感染拡大に加担するかのような行動もあった
- 奇行の理由:
- コロナは老人に対しては死亡リスクが高く、若者は比較的重症化しにくい
- コロナによる外出禁止令は老人を守る為のルールであると解釈された
- 若者は自分自身を経済的にも制度的にも弱者であると認識している
- 実際、移民と仕事の取り合いになっている若者は貧乏で将来に明るい展望が見えない
- にも関わらず、十分な資産を溜め込んだ老人を守る為に自分達の行動が制限されるのは納得がいかないと感じた(ただし、意識的にそう言語化していたかは不明)
- [MEMO]
- 実際にそう表明した若者がいたというわけでもなさそうだし、ここは筆者の解釈か?
平穏な社会は永続的な勝者をつくる
- 富裕層にとっての最大のリスク:
- 理不尽な理由によって命を落とすこと
- コロナ流行下では、街ですれ違う見知らぬ人の咳やクシャミで死ぬかもしれない
- 富裕層の心理:
- 富を持ったまま死ぬことはできない
- したがって、シンプルに死にたくない
- 自分はその辺の人間よりずっと重要な人間である
- 多くのもの(資産)を持っているが故に失うには惜しい命である
- だからこそ自分の命を守る為のワクチンの完成を待ち望む
- 貧乏人の目に映るもの:
- 全てを自己責任と切り捨ててきた嫌味な金持ちが、ウイルスという一切「差別」しない脅威に慌てている
- さも昔から仲間だったかのように「みんなでこの危機を乗り越えよう」などと聞こえのよい事を言う欺瞞
- 貧乏人の怒り:
- 自らの命の価値を大きく見積もる富裕層や支配階層の為に既存の秩序維持に協力する義理はない
- 自分の都合のよい時だけ「自己責任」を取り下げようとしても関係ない
究極の公平を求めて反旗を翻す
- 何故富の再分配が重要なのか:
- それが「正義」だからという意見は部分的には妥当だが、実際には正しくない
- 本当の理由は、再分配を行わなければ社会秩序の維持に協力しない人々を生み出してしまうから
- 社会を維持するモラルは、そのモラルを守り社会に参加する人々に一定のベネフィットが約束されている必要がある
- そうでないと、モラルを無視し、社会を破壊する方がインセンティブがあると気付く人々を増やしてしまう
- 要するにモラルハザード
- 疫病の流行は富裕層や支配階層に再分配を促す理論:
- ウォルター・シャイデルの著書「暴力と不平等の人類史」で述べられた
- 疫病が流行することで、既存社会が不安定になると己の優位性を保証する社会構造が破壊されてしまう為、これを防ぐ為に富裕層や支配階層が富の再分配に積極的になる
- コロナ禍で起きたのもこれと同じだった
- パンデミックによって露見したもの:
- 「全ての人命を守る戦い」という建前
- その建前の下でひた隠しにされてきた「格差」がとうとう既存社会を破壊しようと牙を向き、それを富裕層が必死に抑え込もうとしている構図
- パンデミックによって生じた「問い」:
- 世界の富裕層の上位2100人ほどが下位46億人より多くの資産を独占する現実
- そのような歪な資本主義を前提とした人間社会の秩序を下位側の人々の献身によって支え続けることに意味があるのか?
- パンデミックによるダメージは経済格差によって異なる:
- 実体経済は大きな痛手を受け、資産を持たない一般市民の生活は深刻な打撃を受けた
- 一方、株や不動産などの金融資産はすぐに回復した
- ワクチンや医薬品関係の投資によりむしろ資産を増やした富裕層もいる
- 次の有事:
- 富裕層が富の再分配を怠れば、次の有事ではより明確に社会秩序の維持に非協力的な人間が増える
- 貧乏人には失うものがないので、「究極の公平」を求めて社会に反旗を翻すことになる
- [MEMO]
- マルクス主義が大流行していた時代もこんな感じだったのだろうか?
第1章 - 3 人権のミサイル
東欧からの贈り物
- 敵国に難民を送り込む戦略:
- ベラルーシのルカシェンコ大統領が実施している(とされる)敵国の国家リソースに対する攻撃
- 自国の難民に多少の資金や物資を持たせて政治的に対立する国々(西欧諸国)へ送り込む
- 西欧諸国は人権思想を備えた人道的国家なので難民を保護する必要性が生じ、保護した難民によってそれらの国の社会的リソースに対する継続的なダメージが発生する
- 西欧諸国は人権を神聖なものと捉えているので、難民を無視したり追い返したりできず、防御不可能の攻撃になる
- 西欧諸国の苦境:
- 難民の流入を阻止する為に軍事力を投入したり、壁を建設するなどの行為は「差別主義者」「排外主義者」のレッテルを貼られ、政治指導者ですら失脚する
- 同じような事をトランプ大統領がやろうとした際(メキシコとの国境に壁を建設しようとした)、トランプ大統領を批判した手前、難民を排斥することは自己矛盾に陥ってしまう
かつては「人権」によってミサイルが放たれた
- 覇権拡大の口実としての「人権」:
- 2010年代までの世界では欧米先進国が覇権を拡大する口実として「人権」を振りかざしてきた
- 「人権」を尊重しない国や指導者を「悪」認定することで経済制裁や武力行使が正当化された
- 欧米の支配や覇権の口実として「人権」や「民主主義」が利用されてきた
- 意趣返しされた「人権」:
- 2020年代に入り、「人権」を逆に利用できる事が発見された
- 「人権」を神聖視するが故に「人権」に行動を制約されるというセキュリティホールがあった
- [MEMO]
- 実際には「人道」や「条約」を戦略的な武器として使う事例は数多くあった
- 別に近年発見された手法ではないと思う
- 盲目的はリベラル信仰:
- 欧米諸国ではリベラル思想こそが目指すべき崇高な社会の在り方であるという考え方に信仰が集まっている
- しかし、その実現に必要なリソース産出や配分の問題からは目が背けられてきた
- 「人権」信仰の暗い側面:
- 「人権」を絶対視することで難民を見捨てるという選択肢が取れなくなった
- 結果、無尽蔵に流入する移民や難民を拒否できず受け入れることになった
- 結果、社会福祉コストの増加、文化的摩擦、雇用難、治安の悪化、教育水準の低下、食料供給の不安定化、テロの危険性etcが発生した
迫りくる「相対化」の時代
- 2020年代は相対化の時代:
- これまでの時代においては絶対的な正義や自明の真実とされてきた事柄が相対化されていく
- 絶対的な正義だった「人権」が難民の押し付けによって敵対国の社会リソースを食い潰す戦略兵器にされる
- 自らの信仰によって社会がガタガタになっていく
- 多文化共生による内側からの崩壊:
- 人権思想によって、中東からやってきたイスラム系移民・難民への同化政策を放棄せざるを得なくなった(信仰の自由)
- キリスト教的な道徳観をベースにした社会規範とコンフリクトしてもそれを制限することができなくなった
- 人権思想はローカルな道徳律に格下げされる:
- キリスト教的な道徳観念に基づく法体系を別の文化圏の人々に押し付けるのは人権侵害になるのでNG
- 結果として、キリスト教的な道徳観念に基づく人権思想は西欧文化圏のローカルな道徳観念へと格下げされる
第1章 - 4 両面性テストの時代
コロナ対策に成功したイスラエル
- イスラエルはコロナの感染拡大を効率的に封じ込めた
- イスラエルは人権を制限することでコロナの封じ込めに成功した
- 一方、人権や民主主義的手続きをやろうとした国は対策が間に合わず、深刻なダメージを受けた
足かせとなった人権思想
- リベラリズムは平時には美徳
- 一方、非常事態においては足かせになってしまう
- イスラエルの例や元々人権を重視していない中国はパンデミックという非常事態には有効に機能した
- リベラルや自由主義はむしろ脆弱性を晒した
反移民国家ハンガリーの「不都合な勝利」
- ハンガリーの少子化対策:
- ハンガリーはGDPの4.7%に及ぶ巨額の社会投資の結果、人口減少に歯止めをかけた
- ハンガリーの少子化対策の内容:
- 4人目の子供を産むと定年まで所得税ゼロ
- 3年間の有給休暇
- 第3子出産で学生ローンは全額免除
- ハンガリーはフェミニストの理想の国か?:
- まさにフェミニストの理想の国といった様相のハンガリー
- しかし、首相のオルバンはフェミニストではない
- むしろ、極右の独裁者に近い
- ハンガリーの少子化対策はフェミニズム的な女性優遇政策ではなく、「純粋なハンガリー人」を多く作り出す為の愛国的・民族主義的・富国強兵のニュアンスが強い
- リベラリストやフェミニストが理想とした社会をそれらの人々が蔑むナショナリスト・右派・独裁者という属性の人間が達成したことは皮肉しか言いようがない
民主主義国家の光と影
- 現代社会で絶対善とされるリベラル思想
- そのリベラル思想がパンデミックによって限界を晒した
- 全体主義的な監視社会がパンデミック下での感染症封じ込めでは有効に機能した
- パンデミックによってこれまで絶対善とされてきたものに疑問符が付けられた
- 一方、これまで絶対的な悪とされてきた思想にも優れた点ががあると再評価されることになった
第1章 - 5 共鳴するラディカリズム
連鎖していく過激思想
- 過激な思想や運動には共鳴性がある
- 反ワクチン、極端な脱原発運動、フェミニズム、ヴィーガニズムなどなど
- ラディカルで極端なリベラル/レフト系思想
過激なリベラル/レフトの共通点
- 主観的な「生きづらさ」「被害者意識」「抑圧経験」を強く抱え心身ともに疲弊している
「生きづらさ」の物語化
- 人間社会には様々な複雑性があるが、疲弊している人間にはその複雑さを適切に解釈する認知リソースがない
- そこにシンプルなストーリーを与えられると、与えられたストーリーに身を委ねてしまう
責任の外部化
- 心身ともに疲弊している人間に「シンプル」で「責任を外部化」できるストーリーを与えると、それに飛び付き盲信してしまう
- 例えば、ラディカル・フェミニズムでは「全ては男のせい」という「シンプル」で「責任」は全て男にあるというストーリーが与えられる
- [NOTE]
- 早まった一般化の誤謬
- 認知域の問題でもある
- 「○○を倒せば世界はもっと良くなる」というシンプルなストーリーと「あなたの生きづらさは○○のせい」という責任の外部化はラディカルな思想・活動に共通して見られる特徴
- 結果的に似たような活動を掛け持ちするようになる
物語と人との共鳴から、人と人との共鳴へ
- ラディカリズムに集まる人々は似た者同士なので、連帯感を感じやすい
- 結果、個人的な私憤があたかも公憤かのように拡大する
- 「個人的なことは政治的なこと」というスローガンにつながる
- 「生きづらさを超克する為に努力するのではなく、自分の周囲や社会が変わって、自分を辛くならないように配慮して欲しい」というカスみたいな甘えも許容される
- 端的に言って「ワガママ」でしかなくとも、数が集まれば無視できなくなる
- これが実際に他人や社会に影響を及ぼすことができてしまうと、「世直し」の快感に脳が灼かれてしまう
- 傍から見れば尖鋭化した集団、極性化した集団でしかないにも関わらず、当人達は自身を客観視できる理性は失われてしまう
- [NOTE]
- 部落解放運動が部落利権に変貌していったのと同じである
物語の復活を願う人びと
- 「多様性」概念によって、個人が自由に生きることが認められた世界
- で、あるにも関わらず、未だ「生きづらさ」を抱えてしまう人々が存在する
- 誰もが肯定される世界だからこそ、誰かを断固として否定する口実が求められた
- ラディカリズムはその口実を提供する
「多様性」の反動
- 世界各所で台頭するラディカルな思想運動は「多様性」の反動
- 「誰もが正しい」世界に人間は耐えることができない
- トランプ主義、極右政党の台頭、ヴィーガニズム、アンティファ、ラディカル・フェミニズム、反ワクチン、Qアノン
- これらはベクトルが違うだけで本質的には同類
第1章 - 6 リベラリズムの奇形的進化
不寛容なリベラル?
- 今日の「リベラル」を標榜する人々は、原理原則的な自由の重要性を謳う一方、自分にとって都合の悪い自由については極めて否定的・抑圧的である
- 基本的人権を擁護する素振りを見せながら、己にとって望ましくない・不快感を覚える他者の権利は矮小化・無化したがる
- 多様性を尊びながら、極めて画一的な価値体系への恭順を求める
- 寛容性を説きながら、異なる価値観や政治観に対しては排除を正当化したがる
- 社会的包摂を訴えながら、自分のイデオロギーと対立する者に対しては物理的・精神的な攻撃を仕掛けて社会的な追放を企てる
- 昨今の「リベラル」は「リベラル」とは名ばかりの矛盾に満ちた排他的なファシストに成り果てている
- [MEMO]
- 「リベラル」に多様性が殆ど存在せず、画一的な教義めいた価値観への服従や意見の対立する者へ対する強い攻撃性などは全体主義の空気を感じてしまう
共感性という風穴
- リベラリズムの根幹:
- 「普遍性」「平等性」
- どのような人物・状況であっても与えられる人権は平等であるとする価値観
- リベラリズムと共感性:
- リベラリズムは「共感性」によってリベラルな価値観を世界中に拡散させてきた
- 「共感性」こそがリベラリズムの綻びの始まり:
- リベラリズムを支持する「共感性」の高い人々は、自分が認知・心情的に共感できるものに対しては高い共感を示す
- しかし、全ての事柄・人物に対して等しく共感するわけではない
- 自分が共感できるものに対しては強く共感するというだけの話だった
- 自分が共感できないものに対しては著しく攻撃的で排他的という人間本来の姿を見せる
- 自分にとって共感できるかどうかが社会的善悪の判断につながっている
- 共感できるものは正しい、共感できないものは間違っているという幼稚な判断に繋がりやすい
「共感できない者」にも与えられるリベラルな恩恵
- 共感性の高い人は「普遍性」「平等性」に耐える事ができない:
- どのような人・状況でも、与えられる自由・権利・尊厳が平等であることがリベラリズムの原則
- 自分が認知的にも心情的にも全く共感できない存在であろうが、自分が共感した存在と同等の権利が付与される
- 全く共感できない存在にも権利が付与される光景は不快である
- リベラリズムはそのような不快な場面を継続的に見続ける忍耐を要求する
- しかし、共感性の高い人々はそのような忍耐に耐えることができない
- 「自分が可哀想だと思う方を優先して助けるべき」「あんなに悪辣で邪悪な存在にもフルスペックの人権があるのはおかしい」的な
- 更新されたリベラリズム:
- 共感性の高い人々からの「公正さ」を求める声に押されてリベラリズムの在り方そのものが更新された
- 人々からより大きな共感(同情)を集める存在には、より上質な「平等」「自由」「権利」「尊厳」が与えられることが正当化された
- 「権力勾配」「歴史的非対称性」「アファーマティブ・アクション」などと呼ばれる概念
- 結果的に、共感される存在は優遇され、共感されない存在は与えられる人権の水準が低下した
- リベラリズムの原則は崩壊した
道徳的優位性 ――人情=人権=正義
- 道徳的優位性という新概念:
- もっともらしい理屈を用意したところで、個人的な好悪感情を社会正義と接続するのはリベラリズムの原則から乖離する
- そのような批判や己自身で感じる違和感は回避できない
- 「自由」や「平等」を謳いながら、対象によって付与する「権利」や「尊厳」を選別し、実質的に差別しているという認知的不協和が生じる
- この認知的不協和を解消する概念として提唱されたのが「道徳的優位性」
- 道徳的優位性:
- 自分達が積極的に肩入れしているのは、その対象がそうされるに値する道徳的に「善」なる存在であるからという理論武装
- 共感や同情による依怙贔屓などではなく、その対象がそれだけ「善」だから優遇される
- 逆に優遇されない存在は、その対象はそれだけ道徳的に「悪」であるから当然の処遇と解釈される
- [MEMO]
- 中世の異端審問並のゴリ押し
- 共感性に歪められたリベラリズム:
- 道徳的に優位であると感じたなら、その他を差し置いても優遇される
- 道徳的に劣っていると感じたなら、その他と平等に扱う必要はない
- 平等であるはずの権利が感情的な裁定で不平等に分配されるようになった
- リベラルを標榜しながら、共感できない存在に対しては人権の優位性を下げ、積極的に「悪」認定し、攻撃性や排他性を剥き出しにするリベラリズムが誕生した
- [MEMO]
- まさに中世の異端審問・魔女狩り
傾斜配分の正当化
- TBW
徳の賊
- TBW
第2章 - 1 キャンセル・カルチャー
SNSで台頭する人治主義
- TBW
自由の制限にはあたらない。なぜなら......
- TBW
過去の自分がいまの自分を刺す
- TBW
伝播する疫病
- TBW
第2章 - 2 NIMBY
彷徨える社会コストの集積地
高級住宅街に「治安を乱す存在」はいらない
平和な国の最後のリスクは人間である
「被害者」ポジションをめぐるパワーゲーム
第2章 - 3 排除アート
路上生活者を追い出すための作品
「排除」のポジティブな言い換え
きれいな街が隠蔽するもの
ただしく拒絶するやさしい言葉
第2章 - 4 植松聖の置き土産
社会にとって役立つ存在/役立たない存在
「植松理論」とは何か
反論の脆弱性
私たちの社会にはマイルドな「植松理論」が存在する
植松の問いと対峙する日
第2章 - 5 輝く星の物語
共感と称賛があふれるストーリー
私たちに赦しを与えてくれるから
美しい物語が持つ影の表情
発達障害者の親たちに突き付けられる責任
「ふつう」を擬態するように求める社会
「ありのまま」が受容される人と、そうでない人
第2章 - 6 闘争と融和
「冷淡」な駅員かクレーマーか
危ういバランスの上で成立した「川崎バス闘争」
差別ではなく貧しさによって
強者はどこに消えた?
第3章 - 1 ルッキズム
見た目で判断されない社会へ
奇妙な違和感 ――加速するルッキズム?
ルッキズム反対論は美しい人のためにある
ルッキズム批判の果てにあったもの
第3章 - 2 マッチングアプリに絶望する男
「すべての女がサイコパスに見える。もうだれも信じられない」
彼の見た風景
動物化する人間関係
女性だけが解放された
去勢された男たち
さらに理性的になり、ただしくなった男たちは、去っていった
第3章 - 3 健やかで不自由な世界
牛肉は地球環境の「敵」だ
嫌われていたヴィーガニズム
健康である義務 ――パンデミックで変わる倫理
「個人の自由」の喪失
第3章 - 4 自由のない国
一国二制度の終焉
「表現の自由」が存在しない国
「民主主義的プロセス」の省略
ファシズムを歓迎するリベラリストたち
第3章 - 5 置き去り死
トイレで生まれ、アパートで消える命
だれにも煩わされない社会を私たちは望んだ
弱者にのみ降りかかる自由の代償
「迷惑人間を撃退!」
彼女もまた「迷惑で不快な他者」だった
第3章 - 6 死神のルーレット
社会に復讐する者
弱者の「弱者」たるゆえん
誰もが見て見ぬふりをする
助けようとする人にさらにリスクを引きわたす
第4章 - 1 親ガチャ
- [WIP]
第4章 - 2 子育て支援をめぐる分断
- [WIP]
第4章 - 3 能力主義
- [WIP]
第4章 - 4 低賃金カルテル
- [WIP]
第4章 - 5 キラキラと輝く私の人生のために
- [WIP]
第4章 - 6 平等の克服
- [WIP]
第5章 - 1 子ども部屋おじさん
- [WIP]
第5章 - 2 暗い祈り
- [WIP]
第5章 - 3 きれいなつながり
- [WIP]
第5章 - 4 搾取者であり、慈善家であり
- [WIP]
第5章 - 5 共同体のジレンマ
- [WIP]
第5章 - 6 疎外者たちの行方
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終章 物語の否定
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